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大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)4738号 判決

一 請求原因1の事実(原告が本件発明につき本件専用実施権を有すること)は当事者間に争いがなく、右争いのない本件発明の特許請求の範囲に基づきその構成要件を分説すれば、「請求原因に対する答弁」2の(a)、(b)、(c)、(d)の四要件に分説しうるものと認められる。そして、請求原因4の事実(被告がイ号物件を業として製造販売していること)は当事者間に争いがなく、右争いのないイ号物件と弁論の全趣旨によれば、イ号物件の使用方法は、「請求原因に対する答弁」5の(a)、(b)´、(c)´、(d)´の構成からなるものと認められる。

二 ところで、原告が本訴で主張するところは必ずしも明らかでないが、本件発明は物を生産する方法以外の方法の発明にかかるものであつて、弁論の全趣旨から明らかなように、被告は、本件発明を直接使用する立場にないから、本件発明を直接実施するものではなく、したがつて本件専用実施権を直接侵害する立場にないところ(特許法二条三項二号参照)、一方、原告は、イ号物件の使用方法が本件発明の方法と同一(実質的に同一)であり、被告がイ号物件を業として製造販売することが本件専用実施権を侵害することを理由に、イ号物件の製造、譲渡、貸渡し等の差止め等を求めているから、結局、原告の主張の趣旨は、被告が本件発明の実施にのみ使用する物であるイ号物件を業として製造販売しているので、当該侵害行為(いわゆる間接侵害行為)の差止め等を求める(特許法一〇一条二号、一〇〇条参照)というところにあるものと解される。

そこで、被告がイ号物件を業として製造販売することが本件専用実施権の間接侵害になるか否かについて以下検討する。

成立に争いのない甲第二号証に前認定の事実によると、本件発明は、圧縮空気による土壌内の植物根部への空気供給方法にかかるものであつて、蓄圧タンクから導出したノズルパイプの下端部に形成した噴出口を植物の根部近くの土壌内に差込んだ状態にして弁で閉塞し(前記構成要件(a))、圧縮空気供給ホースから供給されてくる圧縮空気を蓄圧タンク及びノズルパイプ内に高圧に蓄える(前記構成要件(b))という手順からなるところ、イ号物件は、圧縮空気を土壌内の植物根部へ供給するために使用する物であつて、蓄圧タンク104とこれから導出したノズルパイプ105との間の連通孔100を高圧圧縮空気の排出時以外は自動的に弁107で閉塞しておいて、圧縮空気供給ホース115から供給されてくる圧縮空気を蓄圧タンク104内に常時高圧に蓄えるようにしておき(前記構成(a)´)、次いで、ノズルパイプ105の下端部に形成した噴出口106を植物の根部近くの土壌内に差込む(前記構成(b)´)という手順により使用されるものであると認められる。

そうすると、本件発明は、噴出口を土壌内に差込んだ状態にした後に圧縮空気を高圧に蓄えるという方法を採るのに対し、イ号物件は、右方法とは逆に、圧縮空気を高圧に蓄えた後に噴出口を土壌内に差込むという手順により使用されるものであるから、イ号物件は、本件発明の実施に使用しえないというべきである。

原告は、イ号物件の右認定の手順による使用方法が唯一のものではなく、本件発明の方法と同一の手順による使用方法も可能である旨主張するが、仮に、原告主張の使用方法が可能であるとしても、イ号物件は、本件発明の方法と同一の手順による使用方法のほかに本件発明の方法とは異る右認定の使用方法ができるのであるから、本件発明の実施にのみ使用する物ということはできず(特許法一〇一条二号参照)、結局、原告の右主張は失当というほかはない。

次に、前掲甲第二号証に前認定の事実によると、本件発明は、圧縮空気供給ホースから供給されてくる圧縮空気を蓄圧タンク及びノズルパイプ内に高圧に蓄えることを必須の構成要件としている(前記構成要件(b))ところ、イ号物件は、前記のとおり、圧縮空気を土壌内の植物根部へ供給するために使用する物であつて、蓄圧タンク104とこれから導出したノズルパイプ105との間の連通孔100に弁107を設けて閉塞し、圧縮空気供給ホース115から供給されてくる圧縮空気を蓄圧タンク104内のみに高圧に蓄えるという構造になつているものと認められる。

そうすると、イ号物件は、構造上ノズルパイプ105に圧縮空気を高圧に蓄えることができないものであるから、蓄圧タンクのほかノズルパイプにも圧縮空気を高圧に蓄えるという方法を採用した本件発明の実施に使用しえないことは明らかである。

原告は、イ号物件において、開弁して高圧圧縮空気を噴出させる場合、ノズルパイプ内に高圧圧縮空気が拡散することによる圧力低下は無視しうるから、蓄圧タンク内の空気圧と同圧の圧縮空気をノズルパイプを経て噴出することができ、したがつて、その使用方法は、本件発明の方法と本質的差異がない旨主張するけれども、採用し難い。すなわち、成立に争いのない甲第五号証、乙第一号証によると、本件発明出願前の公知資料として、実公昭三五―二七八二一実用新案公報(昭和三五年一〇月二〇日公告)、実公昭三五―二四五三〇実用新案公報(昭和三五年九月二二日公告)が存在し、右公知資料によれば、本件発明出願前、空気又は圧縮空気を土壌内へ送り込んで植物根部に供給するという技術思想自体既に公知のものであり、空気等を閉塞すべき弁は地上に位置する部位に設けられていたことが認められる。一方、前示甲第二号証によると、本件発明に関する特許公報の発明の詳細な説明には、本件発明は、「高圧に蓄圧された圧縮空気が閉じられた空間から急激に爆発的に噴出するときに極めて大きな瞬間破壊力が発生することに着目し、この瞬間破壊力を利用して植物の根部の近くの土壌内に亀裂を発生させると同時に、その亀裂を通じて空気を土壌内に充分に吹込み浸透させ、爾後、この空気を植物の根部に長時間に亘り徐々に吸収させて植物の発育を促」すようにした「圧縮空気による土壌内の植物の根部への空気供給方法」を「提供するものである。」とし(二欄一三行目から二四行目まで)、本件発明の方法を実施する機械の一例の説明として、「蓄圧タンク4の下端部からノズルパイプ5を下方に連出し、このノズルパイプ5の下端に開口する噴出口6に上下両方に突出する円錐状の弁7を下方から接当」するものとし(二欄三一行目から三四行目)、実施手順の説明として、「樹木などの根が張つている土壌にノズルパイプ5を弁7を先導として差込」み、「ノズルパイプ5の噴出口6が弁7で確りと塞がれた状態となつて土壌内51の所定の深さで停止」させ(四欄一一行目から一六行目)、蓄圧タンク及びノズルパイプ内に圧縮空気を高圧に蓄えたのち、ハンドルを瞬間的に少し持ち上げると、「土壌内51で弁7が残されたままノズルパイプのみが持上げられ、噴出口6が急激に開き、噴出口6の近くで蓋圧されていた圧縮空気が噴出口6から急激に爆発的に噴出し、この噴出衝撃による強大な瞬間破壊力により、噴出口6の周囲の土壌内51に亀裂を瞬時に発生させ」る(四欄三九行目から五欄一行目まで)との記載がなされている。右記載に前記特許請求の範囲の記載とをあわせ考えると、本件発明では、ノズルパイプの下端部に形成した噴出口を弁で閉塞し、蓄圧タンクのほかノズルパイプの全部に圧縮空気を高圧に蓄えたうえで、弁を急激に開いて噴出口から高圧圧縮空気を急激に爆発的に噴出させるという方法を採用したものであり、ここにこそ本件発明の新規な点が存するということができる。そうすると、蓄圧タンクのみならずノズルパイプに圧縮空気を高圧に蓄えるという方法は、本件発明の重要な構成要件をなすものであるから、蓄圧タンクのみに圧縮空気を高圧に蓄える構成を採る植物根部への空気供給方法は、本件発明の方法とは別異な方法というべく、また、本件発明の実施機械では、噴出口を土壌内に差込まない限り、噴出口を弁で閉塞できないし、圧縮空気を蓄圧できないのに対し、イ号物件では、噴出口を土壌内に差込むと否とにかかわりなく、連通孔を弁で閉塞し、圧縮空気を蓄圧できるのであつて、両者には、本質的な差異があるということができる。したがつて、イ号物件の使用方法と本件発明の方法とは実質的にみても別異なものであり、イ号物件の使用方法を本件発明の方法と同一視することはできない。すなわち、イ号物件は、本件発明の実施に使用することができず、また、本件発明の実施に実質的に使用しうると評価することもできない。

そうだとすると、被告がイ号物件を業として製造販売することは、本件専用実施権を侵害しない。

三 以上のとおりであつて、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとする。

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